万全の教育体制と人材の成長を「トライアル就労」が底上げしてくれました。
SPI株式会社/代表取締役 木下様
未経験者にも活躍できるチャンスがあるIT市場
来年で設立から15周年を迎えるSPI社は、幅広い分野の業務システムやアプリケーションの開発を行ないながら、その運営サポートまでを担うソフトウェア受託開発事業社です。現在の社員数は約120名。およそ半数のスタッフは客先常駐というかたちでクライアント企業に出向き、残りは社内で業務にあたります。取引先には日本有数のITサービス企業やベンダー企業、有名メーカーなどそうそうたる顔ぶれが並び、各社が必要とする技術力を適材適所で提供しています。
事業内容に応じて人員を配置しなければならないため、プロフェッショナルな人材の育成に余念はありません。代表の木下社長にお話を伺うと、システムエンジニアを育てるノウハウはすでに5年以上も蓄積されていて、独自の研修センターを設けるなど教育環境の整備にも注力されてきたといいます。大手企業からのキャリアチェンジで同社に転職されたエンジニアも多く、経験豊富で教え上手なベテランスタッフの存在は、向上心旺盛な若手にとってもスキルを伸ばせる好環境を作り上げています。
木下社長「前職がどんな職種であったかは関係ありません。極論をいえばIT知識が皆無でもいいんです。大切なのは本人の意識。将来に向け、この分野で成長したいかどうかに尽きます」
もともとSPI社は、求人広告や人材紹介サービス、リファラル採用によって人材を確保してきました。国の雇用促進事業によってインターンを受け入れたこともあり、類似事業である雇用創出・安定化支援事業で知り合ったのが現在の事務局スタッフ。IT分野に特化した新しい事業の開始を知らされ、より優秀な人材を採用するために活用を決断しました。
木下社長「実は、コロナ禍が収まる前までは人の動きが盛んでした。心機一転IT分野にチャレンジしようと考える人が多かったのでしょう。受け入れ人数に制限を設けたほどでしたが、今年に入ってから状況が一変しました。むしろ経済が活性化したことで応募者が減ってきたような気がします。世間では人材不足が取り沙汰されていますが、仕事ができる人は引く手あまた。そこで、より優秀な人材を集めるため、この成長産業人材雇用支援事業の活用に至りました」
木下社長曰く、同社では未経験者を中心に採用を行なっているとのこと。技術革新やトレンドの移り変わりが激しいこの業界で、常に新しい技術のキャッチアップは必須。自分を成長させていく素直な気持ちや柔軟性の面で、未経験者に期待するところが大きいのだといいます。
「もちろん経験者がダメというわけではありません。当社でも優れたシニア層のベテランスタッフが多数活躍しています。年齢を経たことで培われた対応力やマネジメント力が、人間関係をスムーズにしたり、仲間たちの意識を高みに引き上げたり、後輩の教育を行なう際にも活かされます。逆に申し上げると、彼らをお手本に学ぶ環境が揃っているということ。たとえ未経験者であっても、いくらでもチャンスがあるといえます」
成長産業人材雇用支援事業が最良のマッチングを実現
木下社長のリクエストを受け、事務局が提案したのは2名の求職者でした。
7月から2か月間におよぶトライアル就労期間を経て、9月に正社員として採用された松本さんは、前職がフレンチの料理人という異色の経歴の持ち主。7年間にわたって修行に励んだ料理の世界から離れることにはためらいもあったそうですが、国家資格の一つであるウェブデザイン技能検定の取得を目指す中で自信を持ち、かねてから興味のあったIT分野への転職に踏み切りました。
松本さん「大きなきっかけはコロナ禍です。勤めていたレストランが閉店し、職を失いました。その後、事務など慣れない職種に就いていましたが、どうせ異業種にトライするなら、昔から夢みていたエンジニアになろうと考えたんです。とはいえ未経験で年齢も30歳近く。オンラインスクールや資格取得の勉強と並行して転職活動を続けましたが、この業界が本当に自分に向いているのかといった不安ばかりが募っていました。ある時、東京しごとセンターを利用している中でこの成長産業人材雇用支援事業を紹介していただき、この事業の事務局スタッフと話し合いながらトライアル就労に挑戦してみました」
木下社長は、松本さんが会社見学に訪れた当初、松本さんの線の細さを心配されていたのだとか。デスクワーク以外にも出張やお客様との会合が多いエンジニアの仕事をこなすにあたって「体力的に大丈夫だろうか?」と考えていたそうです。
木下社長「私の勝手なイメージで、料理人さんというものは恰幅がよくてエネルギッシュな人ばかりだと思い込んでいたんです(笑)。でも実際は、彼が食事をとるのもままならないほど忙しい職場で、懸命に料理の腕を磨いてきた頑張り屋さんだということがわかりました。当社では基本研修に1か月。その後、最大で2年間にわたって実践的な教育を施していきます。仕事に必要な知識は教えますが、それを武器として応用していくには、自分自身で足りないピースを埋めていく強い意志が求められます。彼はとても勉強熱心でガッツがある。今、担当してもらっているのは医療系のシステム開発で、薬学をはじめとする関連知識を学び、お客様のことも理解しなければなりません。とても期待しています」
一方、もう一人の求職者であった川上さんは、接客業を経て、企業のITチームでヘルプデスクを務めていました。松本さん同様、システム開発に関してはまったくの未経験者ながら、トライアル就労を経て、この11月に正社員として採用されました。
川上さん「デジタル機器販売の接客業をしていた際、通信のエンジニアリングに触れ、この分野に興味を抱くようになりました。今まで転職サイトを介して多くの求人に応募してきましたが、仮にエージェントの方々が私のことを認めてくださったとしても、たいていの企業では『未経験者は難しいよ』と厳しい言葉をかけられるばかりでした」
そんな矢先、たまたまインターネットで検索して知ったのが本事業の存在。さっそく登録を済ませ、事務局スタッフと面談を重ねました。事務局スタッフは通常、キャリアの棚卸しといって、求職者の経験、特技、人柄などを詳細に汲み取る作業を行ないます。その人の強みは転職を後押しする重要な要素となります。川上さんも「すごく褒めていただき、不安だらけの私の背中を押してくれました」と当時を振り返ります。
木下社長「これは本人を前に初めて話すことですが、川上さんはあらかじめ行なった適正テストで満点を取った逸材です。吸収が早く、コミュニケーション能力も高い。当社のような環境で研鑽を積めばきっと成長も早いでしょう」
ちなみにSPI社では、2019年まではわずか2名だった女性スタッフが、昨年から続々と増え、現在は14名とのこと。働き方改革の浸透で「残業がなくなったのが大きい」と木下社長は語ります。性別を問わず働きやすい環境ができたことで、成長スピードにおける男女差がなくなったのかもしれません。
木下社長「彼女の先輩スタッフで、一般的には5年かかるところを3年で一人前になった女性社員がいます。わからないことは素直に先輩の助言に耳を傾け、何事も前向きに捉えながら自分のものにしていく。川上さんにもそういうエンジニアを目指してもらいたいですね」
採用時の無駄を解消してくれた「トライアル就労」
木下社長は、本事業の素晴らしさを以下のように語ります。
まず、トライアル就労期間による2か月間を、これまでも行なってきた新人教育に充て、効率の良い人材育成が達成できているという点です。これは、教育に力を入れるSPI社の企業姿勢があってこその賜物ですが、トライアル就労中のコストは東京都がバックアップしてくれるため、企業側のメリットは大きいといえます。また、トライアル就労を通して、求職者の素顔が見えてくることも挙げられるとのこと。1週間から2週間ほど一緒に働くと、書類選考や面談ではわからなかったその人の感性や人となりが浮かびあがってくるのだそうです。
木下社長「研修中は知識の習得とともにさまざまなミッションをこなしてもらうのですが、作業を任せた時にどんな反応をするか、課題解決に向けてどのような対応を採るか、言い方は悪いですがその人の本性が働きぶりに表れてくるんです。トライアル就労の2か月間で、どんな適正があるか、将来どんな現場で活躍しているかまでもが、手に取るようにわかってきます」
もちろん求職者のお二人にとっても、本事業は心強いものでした。松本さんは「なんでも相談でき、いつでも味方になってくれる事務局のスタッフがいたことで、精神的にも落ち着いて転職活動に取り組めた」とのこと。川上さんは「自分が働きやすい場所、幸せになれる場所が見つけられてよかった」と話してくれました。
木下社長「受け入れられること、許容できないこと。お互いが大切なことをおざなりにしたまま時を過ごしてしまうと、結局は双方とも不幸になってしまいます。この事業は求職者の皆さんのためになると同時に、人材を採用する私たちにとってもありがたいものです」
人材採用におけるミスマッチは、単に貴重な時間を浪費するだけでなく、不要なコストを発生させ、非効率を生んでしまいます。この成長産業人材雇用支援事業は同社にとってもはや不可欠なものとなりつつあるようです。
- 事例紹介/企業プロフィール
- SPI株式会社
- コーポレートサイト:https://spi-jp.com/
- 東京都中央区日本橋馬喰町1-6-3 吉野第一ビル7F
- 事業内容:各種システム、ECサイト、アプリケーション、ソフトウェアの受託開発
- 従業員数:120名
- 取材撮影:2023年11月
- ※2023年4月~11月まで成長産業人材雇用支援事業を活用し、2名正社員として採用
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