「私たちのような中小企業では、どんな会社であれ、社長の次にすべてを把握している〝大番頭〟のような存在が必要なはずなんです」そう語ってくださったのは、およそ半世紀にわたり五十嵐電機製作所の代表を務めてきた五十嵐社長でした。
同社は、現社長のご尊父にあたる先代社長が戦後に起業されたモーターメンテナンスの専門企業です。取り扱うのは汚水処理場のポンプ、工場のコンプレッサー、ビルの空調設備に使用されるものなど、1,000kWを超える高出力大型モーターの数々。それらの総合メンテナンスを担う老舗企業として、約70年にわたってこの事業を続けてこられました。
長きにわたって経営を担ってきた五十嵐社長は、現在、専務を務めるご子息へ3代目の座を引き継ぐことと、自社のさらなる成長と発展を見据えた新体制づくりを模索していました。
五十嵐社長「経営者というものは孤独を抱えがちです。当社ではあるタイミングで大幅な世代交代が生じ、昔から働いていたベテラン社員たちがリタイアしてしまいました。私自身、不安な胸のうちを語れる相談相手がいないという状況が続いたものですから、やはり次期社長となる専務には片腕となってくれるような人材が必要だと考えたのです」
類似事業でトライアル就労から正社員採用されたKさんの活躍がきっかけとなり、当事業でも求人を依頼されました。
五十嵐社長「今回のトライアル就労では、財務や総務にも通じ、経営企画も任せられるオールマイティな人材の獲得でした。一般的な求人情報誌やリクルーティングサイトでは、会計だけ、庶務だけといった個別のキャリアを有した人なら見つかります。しかし、豊富な経験や知見を持ち、なんでも柔軟にこなせる人はなかなかいませんよね。そこで、この事業を頼りにさせていただきました。事務局に私たちの事情や願いをお伝えすると、不確かで曖昧な情報や採用条件を汲み取り、さまざまなアドバイスとともに採用まで伴走してくれました」
もちろん、すでに社員として活躍されている皆さんの中にも優秀な人材は数多くいらっしゃいます。しかし、同社にとって急務とされていたのは、企業としての新たなしくみづくり。次期社長である専務を下支えし、既存の方法論にはない何かを生み出していこうとすれば、そこには新しい血を注ぎ込まなければなりません。
「今あるリソースを最大限に活かしつつ、別ジャンルの事業にも果敢にチャレンジしていける経営環境や企業体質を作りあげていきたい。それが会社を次世代へ繋ぐ、私の責任だと思ったのです」と、五十嵐社長は語ります。
五十嵐社長からのオファーに応え、事務局から紹介されたのは異業種ながらマネジメント能力に長けた50代のHさん。培ってきた経験はもちろんのこと、人柄や積極性、仕事に対するしっかりとした考え方や姿勢を持った人物だということがわかり、五十嵐社長は類似事業で正社員採用となったKさん同様、会社の情報を安心して共有できると確信したそうです。
五十嵐社長「これがトライアル就労の最大の利点ですね。2か月間という限られた時間の枠内でとはいえ、コミュニケーションを重ねていくうちにHさんの人間性が伝わってきました。私に対して忖度のない意見を述べてもらえるように事前にお願いし、私もまた彼には思い切った話をしてきました。さまざまな業務をHさんと一緒に進めていくたびに、信頼を寄せるようになったのです。それまで思いもよらなかったアイデアを聞かされ、私自身が気づかされることも少なくありません」
Hさんは多種多様な経営課題に対して、これまでの経験や能力を活かした働きをされています。解決に至るために必要な情報や材料を拾い集め、適宜社長へと報告、五十嵐社長にとってなくてはならない存在となっているようです。
五十嵐社長「私は職人たちのプロフェッショナルな働きぶりにも頭が下がる思いを持っています。しかし、これは私自身にも言えることなのですが、長年同じ業務を続けてきただけに、ある種のガラパゴス化が進んでいたんです。その輪の中にHさんのように他業種で活躍された人々が加わることでの化学反応を期待したい。経営ができて企画もできて、会社のことを満遍なく見渡しながら、どのように導いてくれるかが楽しみです。確かなコミュニケーション力をお持ちなので、職人たちとの信頼関係を醸成し、専務のよきパートナーになってくれると信じています」
40代の専務と二人三脚で事業を前へ前へと進めてくれるマネジメント人材の採用。「今回のトライアル就労からの正社員採用は、私から会社への提言であり、宣言でもあります」と五十嵐社長が話すように、新旧スタッフが協力し合い、新社長を支えていこうという機運が生まれゆくことを願ってやみません。
【前へもどる】